数あるフィールドフォースの商品の中で、まだ発売数カ月ながら“隠れたベストセラー”とでも呼ぶべき商品がある。「クイックスウィングバット」FQSB-8480。メインユーザーは高校生。ネットでの販売は多くなく、売り上げは主に学校単位の直接注文。名門校監督との忘れられない出会いから生まれたバットがもたらす変革とは…。
ホームページに寄せられた一通のメール

2023年の秋。はじまりは、ホームページの問い合わせフォームから届いた、一通のメールだった。
差出人は、関西の強豪高校野球部監督。
「最初は、いたずらかと思いました」
フィールドフォース社長・吉村尚記が笑いながら回想する。
「しかし、メールを読み進めると、ウチの商品をよく使ってくれていること、ホームページもご覧いただいていて、商品開発の姿勢に共感いただいていることなどが丁寧に書かれていたんです。早速、私からも連絡を取らせていただいて」
実際に電話で話すと、まるで旧知の間柄であるかのように会話が弾んだ。
「『こんなのありますか?』『こんな商品はどうでしょうか』…。そんなやり取りが続いた後、『一度、グラウンドにお邪魔させてください』という話になって」
当時、フィールドフォースは中学、高校、大学の野球部を訪問し、先方の要望を聞き、商品を試してもらいながらプレゼンテーションと商談を行う「外商」にも力を入れて取り組み始めていた。
「(外商を担当している)成田雄馬、井口大也と一緒に、ハイエースに商品を積み込んで、関西に向かったんです」
フリー打撃で使える軽いバットのリクエスト

こうしてグラウンドを訪問したフィールドフォース一行。
「あらかじめ、試したいとリクエストをいただいていたのはフォースマシン(FFMC-100M)やメディシンボール(FMB-1000、2000)、モンスターウォール(FKMP-2116BLK)などでした。それらは実際に練習で使っていただき、予想以上の高評価をいただいたんです。その場でオーダーまでいただいて」
と吉村。
「ネット裏で選手たちの練習を見ながら、監督と雑談する中で話題になったのが、『実打できる軽い金属バットは作れませんか』という話だったんです」
下半身や体幹を強化するために行う、普段よりも重いバットを使った練習はポピュラーだが、この学校では逆に、軽いバットを使ったフリー打撃が行われていた。
「普段よりも軽いバットで打つことで、体にキレが出るんです、という話でした」
吉村が振り返る。
思い当たるフシはあった。
フィールドフォースには、スウィングスピードアップバット(FSUB-8041)という商品がある。普段よりも軽いバットを振り、筋肉にスピードを覚えさせることで、スイング速度を上げようというものだ。陸上のスプリントで、下り坂を走る練習を取り入れるのと同じ発想である。

ただ、FSUB-8041は軟式選手向けの木製バットで、素振りとトスバッティング程度の使用しか想定していない。フリー打撃での実打、それも硬式球でとなると、商品に求められる強度レベルはグッと上がる。
「FSUB-8041を開発するときに考えていたのは素振りだけで、実打はまったく頭になかったんです。ただ、確かに、実際に打つときに素振りと同じスイングスピードは出せませんよね。必ず速度が落ちる。実打できれば、より実戦的な練習になるのは確かです」
発想自体は近しいものの、アウトプットとしては「似て非なるもの」だったのだ。
軽さと強度は両立できるのか!?
件の野球部では普段、その練習のために中学硬式用のバットを使っていた。
高校野球で決められたバットの重さは900グラム以上。それに対し、その練習のための理想は800グラム程度。中学用ならばこの重さのバットがある。ただし、重さを規準に選ぶと、少し短いものになってしまう。
「それまでは、長さは妥協して、82センチ800グラムの中学生用で練習してたそうです。ただ、長さと同時に、強度の問題もあったんです。高校生のパワーで中学生用のバットを使って実打を繰り返すと、やはり強度が足りずに割れてしまうというんですね」
と吉村。
そこから、実打できる軽量バットの開発がスタートした。

課題は、中学生用バットの使用で明らかになっていた、軽さと強度の両立だ。
「太さはそこまでこだわらないと言っていただいたので、少し細くすることでクリアできるのではないかと思い、早速、試作にとりかかりました」
2024年から高校野球で採用されている、いわゆる「低反発バット」といわれる新基準適合バットは、最大径が64ミリ未満と定められている。クイックスウィングバットは直径を62ミリと、それよりもやや細く設定した。
細くすることで軽量化する一方で、強度を確保するため、素材である超ジュラルミンの肉厚はやや厚くした。狙い通りに、84センチの長さで約800グラムという一本が完成した。
次に、これを実際に使ってもらう。
「最初の試作品でいただいた意見は、打球音についてでした。細いとその分、金属特有の共鳴によって、金属バットの『カキン』という打球音が大きくなってしまうんです。それで、発泡体を注入するなどの対策をしました」
もともと、公式戦での使用は想定していないため、そのあたりは自由が利く。修正に加えて、スイングの軌道を意識させるため、半面を黒、半面をシルバーのツートンカラーとした。
3度の試作を行い、その都度、3カ月ほど繰り返して使う強度テストを経て、実打可能、かつ軽量なバットが出来上がったのだった。

口コミと、飛び込み営業と
こうして完成し、今年1月に発売を開始したクイックスウィングバットFQSB-8480。
もちろん、ホームページに掲載し、ネットでも販売してはいるが、ターゲットユーザーは硬式野球で金属バットを使うカテゴリー…つまり、ほぼ高校野球に限られる。それも、個人よりはチーム単位での導入がメインとなるため、ここでの売れ行きは爆発的とはいかない。
ところがその一方で、結構な頻度で吉村に直接、注文の電話が入るのだという。
「開発のきっかけになった高校の監督が絶賛してくれていて、練習試合に来た他校の監督さんに薦めてくれるんです。そんなこんなで、トータルだと、結構な数が売れています」
と吉村。
「最初は、その都度、『先方に吉村さんの連絡先を教えていいか』という確認が入っていたのですが、途中からは『どんどん教えてもらって大丈夫ですよ』とお伝えしたほどです」
恐るべし、高校野球界の横のつながり。もちろん、甲子園出場経験も豊富な強豪校による発信、というのもあるだろう。また、発売から数カ月がたち、このバットを使った練習の効果が徐々に実戦で表れているのかもしれない。

また、それとは別に、野球部のグラウンドに直接出向く、外商でも人気商品となっている。
成田が話す。
「高校での外商には、必ず持っていくようにしています。結構な数の学校で導入していただいてますね」
販売総数で考えれば、個人向け商品ほど売れているわけではない。それでもフィールドフォースの商品らしい、「かゆいところに手が届く」アイテムであることは確か。加えていえば、このバットでしかできない練習を生み出しているのも事実だ。
静かなブームの兆しを見せている、クイックスウィングバット。決して少なくない高校野球部で、練習メニューに変革をもたらしているのだと考えると、実は画期的な商品といえるのではないか──。